2026年 5・6月例会 さよなら、ドン・キホーテ!

オペラシアター
こんにゃく座

さよなら、ドンキホーテ!

台本・演出:  鄭 義信
作曲・音楽監督:萩 京子

公演スケジュール

あらすじ

ドン・キホーテになることを夢見る少女ベル
馬のロシナンテとサンチョと共に冒険の旅が始まる。

1940年代フランスのいなか町。古い厩舎のある牧場で馬を飼って暮らす、トーマスとベルの父娘。馬は戦地へと駆り出され、もう何頭も残っていない。ベルは学校が嫌いだ。自分らしくいることのできない学校になんか行きたくない、と、いつもで本を読んで過ごしている。大好きなのは「ドン・キホーテ」。いつか自分は男になって世界を旅する騎士になることを夢みている。ある夜、ベルは厩の隅に隠れていた少女サラをみつける。サラは家族とはぐれ逃げのびてきた、ユダヤ人だった。ベルはサラに、僕が君を守ってあげると約束する。しかし、戦場から遠く離れたこの町にも戦争の影は忍び寄って来る……。片足が悪く兵士になることができない馬丁のルイ、過去を抱えパリから移り住んできたベルの担任のオードリー、そして厩舎で飼われる“馬”の口シナンテとサンチョ。2匹の馬と、ある家族をとりまく物語。

出演予定=沖まどか 佐藤敏之 梅村博美 大石哲史 ほか


かいせつ

今この時代に伝えたいこと

鄭+萩コンビの作品はつねに涙と笑いに満ち、見終わると元気が出るオペラと言われてきましたが、今回は底抜けに楽しいオペラ、というわけにはいかなくなりました。このような時代にこそ伝えなくてはならないことをオペラで伝えたい。台本+演出の鄭義信さんも作曲家である私も同じ思いです。
このような暗い、苦しい時代は、突然やってきたわけではなく、徐々にその足音は聞こえていました。貧困、差別、偏見……そして戦争が足音を立てて近づいてきています。今まさに、さまざまな暴力にさらされている人々に思いを馳せること。わたしたちにできることはわずかですが、それでもオペラで何が伝えられるか? と考えました。

オペラ『さよなら、ドン・キホーテ!』では2匹の馬が人間を批評します。そこからにじみ出る苦い笑いがあります。1940年代のフランスの田舎を舞台としていますが、この作品のテーマは? と問われれば「今この時代そのもの」と答えるしかありません。
戦争、家族、LGBTQ、愛、友情、宗教、抵抗、差別、孤独、死、教育、性暴力……。登場人物が背負ってしまっているそれらひとつひとつの苦しみは、簡単には解放されることはありません。他者はそれを簡単には共有することはできないけれど、思いを馳せることはできるはず。
深い怒り。長く続く怒り。幼い涙が乾き、そこに消えない灯のように燃え続ける怒り。
そしてどんなに苦しくても生きて行くこと。
わたしたちはこの時代のあふれるほどの理不尽に口を閉ざすことはできません。
これは暗く苦い祝祭オペラです。

劇団紹介

オペラシアターこんにゃく座は、[新しい日本のオペラの創造と普及]を目的に掲げ、1971年に創立されました。母体となったのは、東京芸術大学内で1965年から12年間にわたって活動が続いた学生たちのサークル「こんにゃく体操クラブ」です。このクラブでは、故宮川睦子氏(元東京芸術大学名誉教授)指導のもとに、身体訓練と演技の基礎訓練が行われました。この「こんにゃく体操クラブ」出身者たちにより、自国語のオペラ作品をレパートリーとし、恒常的にオペラを上演する専門のオペラ劇団としてオペラシアターこんにゃく座は設立され、巡回公演を開始しました。

日本にオペラが紹介されてから今日に至るまで、日本では、ヨーロッパで通用するオペラ歌手の育成に力を注いできています。その結果、日本語を歌う技術がなおざりにされ、観客は聞き取れない日本語の歌を聞かされ続けています。そのなかで、こんにゃく座はよく聞き取れる、すなわち内容の伝わる歌唱表現を獲得することを、創立当初からの目的とし、その成果は各方面からの評価を得るに至っています。

こんにゃく座はまた、オペラの演劇性を重視し、こんにゃく体操で培われた身体性を駆使し、演出面にも斬新な発想を提示し続けています。そして大掛かりなグランド・オペラの方向はとらず、ピアノのみ、あるいは小編成のアンサンブルの演奏と少人数の出演者による作品を創作し、数多くの上演を重ねています。

作曲家・林光(1931-2012)は1975年より音楽監督、座付作曲家を、1997年より芸術監督を務めました。現在、萩京子を代表・音楽監督とし、約40名の歌手を擁し、年間およそ250公演の上演活動を続けています。