こまつ座
雪やこんこん
演出:鵜山 仁
- 岡山市民文化ホール
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例会日 昼 夜 1/13 木 – 6時45分 1/14 金 1時 – 1/15 土 2時 – 1/16 日 2時 – 1/17 月 1時 – 1/18 火 12時30分 –
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西大寺市民劇場例会
西大寺公民館大ホール -
例会日 昼 夜 2/3 木 – 6時45分 2/4 金 1時 –
前 口 上
生年は、おそらく明治40年代の初めでしょう。
両親は間違いなく役者です。それもかなり名前のある役者夫婦、旅役者としては超一流だった。特に父親はすごい。中央のひのき舞台に中ぐらいの役で出ていた数年間があったかもしれません。それが、芸の行き詰まりか女出入りか酒か、いずれにしてもお定まりの筋で都落ち、旅の有力一座で小遣い稼ぎをしているうちに、座長の娘と割りない仲になり、そのまま一座に居ついてしまった。中村梅子はこの二人の間に生まれた一人娘のようです。
父親は、この梅子に徹底した英才教育を施しました。三つ四つの頃から舞台に出して、お客の優しさと恐ろしさを教えたのです。こまごました芸の技術は、母親が丹精込めて注ぎ込みました。そのかいあって、梅子を若き女座長に据えた一座は、昭和の初年から10年代前半にかけて、浅草を席巻します。
戦後すぐの演劇ブームでも、彼女の一座は、芸が達者で客を大事にする老舗の一座として人気が高かった。しかし、そのうちに、映画やストリップに押されて、ほとんどの旅芝居一座が、裸でいばら垣根を潜るような憂き目にあいます。梅子一座は、その中では健闘したと思います。梅子の人柄のよさ、芸にかける気迫、そして、梅子を助ける頭取・久米沢勝次の忠義などが、一座を生き残らせました。この『雪やこんこん』は、ちょうどそのころに起こったお話です。昭和28年暮れの、中村梅子一座の二日間をお楽しみください。
スタッフ・キャスト
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- 熊谷真実
- 中村梅子
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- 大滝 寛
- 久米沢勝次
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- 藤井 隆
- 秋月信夫
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- 小椋 毅
- 明石金吾
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- 前島亜美
- 三条ひろみ
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- 村上 佳
- 光夫くん
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- 安久津みなみ
- 女中お千代
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- まいど 豊
- 立花庫之介
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- 真飛 聖
- 佐藤和子
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Cast
中村梅子 | 熊谷真実 |
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久米沢勝次 | 大滝 寛 |
秋月信夫 | 藤井 隆 |
明石金吾 | 小椋 毅 |
三条ひろみ | 前島亜美 |
光夫くん | 村上 佳 |
女中お千代 | 安久津みなみ |
立花庫之介 | まいど 豊 |
佐藤和子 | 真飛 聖 |
Author
Director
Staff
- 音楽
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宇野 誠一郎
- 美術
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石井 強司
- 照明
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服部 基
- 音響
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秦 大介
- 衣裳
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中村 洋一
- 所作指導
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沢 竜二
- ヘアメイク
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鎌田 直樹
- 宣伝美術
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安野 光雄
- 演出助手
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谷 こころ
- 舞台監督
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増田 裕幸
- 制作統括
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井上 麻矢
劇 評
人情話を得意とする女剣劇一座が、舞台顔負けの大芝居を打つ。舞台という虚構の世界に、もう一つの虚構を組み入れた仕掛けで、作者井上ひさしが、どんでん返しの妙味をたっぷりと味わわせる。
「虚 × 虚 = 実」。何やら算術めいて、キツネにつままれた気分だが、だましの痛快さ、義理人情や芝居への熱い思いに触れ、心が和んだ。
昭和28年暮れ近く、北関東の湯治場にある芝居小屋の楽屋が舞台。映画やストリップに押されて、財政事情の苦しい旅回り一座がやって来た。満足な手当ても払えず、逃げ出す座員もいる。座長・梅子は、忠義深い番頭や元女優と組んで一計を案じたが…。
芝居がかった会話の飛び交う楽屋風景が、実にテンポの良い運びだ。登場人物の心情を剣劇の決めぜりふでたたみかける。中でも窮地に陥った座長が、座員を引き留めようとするせりふが泣かせる。
なぜ芝居をするのか。芝居を楽しみにする観客に、役者はどう応えられるのか。化かし合いの人情話で笑わせながら、作者の演劇観を巧みに忍び込ませる。
豊かな言葉と情感に支えられた演劇は、時代を超えて生きる。方向性を失った日本の演劇への示唆とも読み取れる。
(1991年11月30日 読売新聞より抜粋)次例会のたねより
井上 麻矢さん(こまつ座代表)に
突撃インタビュー
突撃インタビュー
お芝居ってなんて素晴らしい
昭和20年代に、戦後の娯楽がない間、大衆演劇の劇団が600くらい増えましたが、テレビの出現や生活が豊かになるにつれ、どんどんすたれていきました。それでも、いろいろ策を練りながら、一座をとにかく守りながら旅をしていた座長さんたちが全国にたくさんいました。お芝居を観ることによって人生が少し豊かになる、そんな思いを頑張って守ろうとした一座の話です。演劇の中にこんな歴史もあるという一面を伝えています。
大衆演劇は、既存の作家が書いたものではなく、俳優たちの生活の中で生まれたせりふからなっています。座長さんの人生観とか経験がせりふになって出てくるダイレクトな人情物語。だから観る人にダイレクトに届いて励まされる。井上ひさしは、嘘偽りのない生活の中から出てきたものがすごく好きだったんだと思います。
この戯曲の魅力はただ単純に「お芝居って、なんて素晴らしいんだ」ということを切々とあの手この手で伝えていること、そのストレートさにあると思います。生きたせりふの素晴らしさを切々と語っています。
熊谷真実さんは、やっぱり天才肌
市原悦子さん(1987年、1991年)
宮本信子さん(1999年)
高畑淳子さん(2012年)
が演じられて、今回 熊谷真実さんです。どんどんリレーされてきたその歴史を、今現在やる人が全部引き連れていて、再演を重ねるごとに、よりその役が深まっているような気がします。それぞれ歴代の演者さんの役にこもった魂のようなものをちゃんと受け取って演じて下さっている。
熊谷真実さんは、この後大衆演劇に出ちゃうんじゃないかと思うくらいの勢いでやってます。役に対する入り込み方が、やっぱりちょっと天才肌だなと。がむしゃらだけど、あそこまで入り込めるのは真実さんの才能だと思います。
真飛聖さんは、ものすごく役に対して素直な方。真実さんとの掛け合いがうまくいくと作品に入り込みやすくなるでしょう。
藤井隆さんは、鵜山さんとの信頼関係があって、ちょっと飄々(ひょうひょう)とした感じが鵜山さんに響いているようです。
心に響く作品を丁寧に創っていく
劇中の好きなせりふに「いい芝居を観ると、しわが伸びる、腰が伸びる、寿命が延びる」という名せりふがあるんです。だから、井上ひさしも良い芝居を創り続けなきゃいけない、書き続けなきゃいけないと思っていたのでしょう。父の遺したものを次の世代に伝えていくことが私たちの仕事なので、これからもどんな時代になっても、人の心に響く作品を丁寧に創っていく、これに尽きます。(えんげきの友NO.566参照)
初演出のこまつ座 幕が降りる時、拍手が鳴りやまなかった
鵜山 仁(演出家)
1987年、僕がこまつ座の芝居を初めて演出したのが『雪やこんこん』でした。戦後、傾きかけた大衆演劇一座の物語ですが、当時若かった僕は、女座長が団員を鼓舞するため、お婆さんに扮して言う〝芝居を観ると、しわが伸びる、腰が伸びる、寿命が延びる〟というせりふのようには、〝芝居〟を肯定的にとらえることができませんでした。台本は遅れに遅れましたが、初日の幕が降りる時、拍手が鳴りやまなかった。僕の隣で井上さんが〝お客さんが席を立とうとしない。大成功です〟と嬉しそうにおっしゃっていて、なんて楽観的な人なんだろうと(笑)。僕は初日を遅らせてしまった責任のことで悩んでいましたから。
でも初演から30年以上経ち、演劇の登場人物は、実際の人間よりも長生きだ、という実感があります。井上さんが亡くなっても、芝居の言葉は、新たな可能性を吸収しながら生き続ける。個人の命より長いスパンで〝芝居の遺伝子〟は継承される、という点に、微かに夢を託しつつ、実は今、楽しいんです。
初演の市原悦子以来、名女優が演じてきた座長・中村梅子の役に、還暦を迎えたばかりの熊谷真実が初挑戦する。
経験豊かで、芝居のお客さんとの直の交流が身体に叩き込まれている役者さんだと思うので、爆発的な、収拾がつかないような〝座長〟をやっていただきたいです(笑)。
(2020年2月週刊文春より)
【大衆演劇・豆知識】
現在の大衆演劇は歌舞伎の影響に加え、「節劇」と「剣劇」という二つの芝居形式が大きく関わっている。
「節劇」…浪曲師が語る浪花節に合わせて芝居を実演するもの。第二次世界大戦の敗戦直前まで各地で大流行した。義理人情をテーマとした情感たっぷりの表現が「くさい」と評されることも。
「剣劇」…大正8年、リアルで壮絶な殺陣を見せた「新国劇」が大喝采を浴び、チャンバラ劇として大流行。明快な勧善懲悪を好む観客に、今なお「剣劇」はなくてはならない要素だ。